Anrealms (NIL x J)
2×20年。不老不死が実現した世界において、人々は各々の人生を謳歌していた。より正確に言えば不老不死とは若返りの技術と寿命延長の技術を組み合わせた危ういバランスの上に成り立っており、「永遠の生」という意味での不老不死が実現しているかどうかは誰にも分かっていなかった。
「Dogodxxx」
そう呼称される個体が誕生してから150年の年月を経ても、未だに20代の外見を維持していることを目の当たりにした人類は、不老不死の実現を確信した。後に「Dogodxxx」を被検体とした研究が進み、当初は富裕層や知識階層を中心として流行した不老不死は、やがて一般市民の義務となった。
昔は世代を10年ごとに区切ることが主流であったが、今では100年ごとに区切ることが主流となっている。既にこの世界においては年齢 ≠ 老化が常識となっていたが、同時代の文化の共有/専有を基準とした世代の区切りは未だに重要であった。今年は「Dogodxxx」が誕生してから572年目になり、最新の世代はIH6(IH = Immortal Human、「Dogodxxx」が誕生してから100年区切りで次世代になる)と呼ばれている。
突然だが、此処にある髑髏「Dogodxxx」の髑髏である。つまりこの髑髏は「不老不死者の髑髏」ということになるが、これは一体どういうことだろうか?
不老不死とは不死身であることを意味しない。よって外傷を受けることで死に至ることは当然あり得る。しかし人工知能、人工生命、ナノマシンが生命を管理し、自殺管理局によって自殺が禁止された世界において、死ぬことは生きることより困難になっている。
例えば遙か昔に実用化された人工知能による自動運転技術は、事故を人災の問題から確率の問題、つまり自然災害の問題へと変化させた。しかしたとえ極小の確率で事故が起こったとしても、人体の内部を巡回するナノマシンによって即座に治療が施されるため、死に至る可能性はほぼ存在し得ない。
そんな状況の中、「Dogodxxx」は死んだ。何故?一体どのようにして?
「Dogodxxx」は近年、死への好奇心を持っているとされていたが、その理由は定かではない。数百年前、不老不死者が墓碑銘を考える慣習が流行したことがあり、「Dogodxxx」は「生を想え」という言葉を残していた。ナノマシン注射による身体のメンテナンスが長期的に及ぼす影響は未だに不明だが、もしかしたらそのことが精神に影響していた可能性もある。
ARによって表示されているのは「Dogodxxx」の髑髏と、本人が生前使用していたとされる遺品の数々である。それらは死後も「永遠の生」を前提として動き続けている。我々は「不老不死者の死」に纏わる数少ない情報を手掛かりに、ヴァニタスやメメントモリを反転させた「生き続けること」の意味を探る。